えっ、冷却水だって。なんだか冷たそうで、いいな。
なにいってんの、車のエンジンを冷やす冷却水だって、やけどする。原発ってのは、なんしろ炉心では1000度以上の温度らしいぜ。
へえっ、そんなのはありえない。水っていうのは100度で沸騰するんだぜ。1000度なんて、ありえないよ、ばーか。
あほ、圧力がかかってるんだよ。なにしろ敦賀2号機のタイプは冷却水に150気圧かかっているらしい。だから、沸騰しないんだよ。それで、300度以上の超熱湯が冷却水ということらしい。
えっ、300度。そりゃ、だめだ。そんなんじゃ冷やせっこない。1000度の炉心を1300度にしちゃうじゃないか。
うん、おれもそう思いたいぐらいなんだ。なにしろ、水をそんな温度にするのは、まちがっている。水は、やっぱり100度ぐらいで沸騰して0度ぐらいで凍るのがいい。それが、あの原発っていうやつは、とんでもない代物で、ウランをびっしり詰めこんだ指の太さぐらいで2メートルはある金属のさやが、8畳ぐらいの空間にびっしり何万本もならんでいて、その隙間は3ミリぐらいしかない。その超せまい隙間を秒速何メートルという勢いで300度以上の超熱湯がつっぱしる。何万本もの燃料棒はうなりをあげるが、たがいに接触したりはしない。
そりゃ、すんげえ。やっぱ、ハイテクじゃん。
そうさ、ハイテクさ。なにしろ金属のさやってのは、ジルコニウムとかいう超合金で、その厚さは0.6ミリという代物だ。接触したりすれば、そこは水が流れない。燃料棒の中心で2000度にもなっているのが、冷やされないのだから、たまったもんじゃない。たちまち金属のさやは化学反応をおこし、ウラン燃料はぼろぼろと崩れ落ち、たちまち原子炉はコントロール不能になる。
じゃ、だめじゃない。
だから、だめじゃないように、接触はしないんだ。すごいハイテクだろ。
なんだか、わからないけど、それで冷却水とかが漏れるというのは、どうして。
だから、それもハイテクだからだ。
ぜんぜんわからないけど、とにかく燃料をぬるくしないとだめで、その水が漏れてなくなちゃうんだから、燃料の温度は下がらないで、上がっちまうということかい。
そうそう、だから、水がものすごい勢いでどっかで噴き出してしまって、圧力が下がっているのに気がついた人間が、あわててか、冷静にか、とにかく水を注入したんだな。
えっ、ハイテクってのは、やっぱり人間があわてたり、冷静になったりするの?
そうそう、どういうわけか、自動的に動くキンキュウロシンレーキャクソーチのほうは作動しなかった。たぶんこのロボットが動くとろくなことはないから、スイッチが切ってあったんじゃないかな。人間さまさまだよ。この人たちが手動で運転を止めなかったら、いまごろおれたちは放射能の集中豪雨をあびてるね。それで、足した水の分量が、あの事故の日の午前10時に発表された40トンとか、その晩の8時に発表された90トンとかいう数字だろう。
へえっ、おれがまだ寝ていた朝の6時から、寝起きの10時ごろまでに40トン、びんびんの晩の8時に90トンということかい。それにしても、すごいねえ、なん十トンとかかい。ビールにすれば何本ぐらい?
ばか、縦10メートル横9メートルのプールに深さ1メートルまで水をいれれば90トンだ。 ということは、縦10メートル横4メートルのプールに深さ1メートルの水で40トンだ。
へえっ、4時間で40トンということは、1時間で10トンか。漏れた穴ぼこがどれくらいか知らねえけど、1時間で10トンの水ってのは、たいへんだぜ。うちの風呂なんか、蛇口を目いっぱいあけても、いっぱいにするのに20分もかかる。
そうそう、だから、漏れるなんてもんじゃない。噴きだしたんだ、想像を絶する勢いでな。
やっぱ、ハイテクだ。
だから、いっただろ、ハイテクだって。