彼の話をかいつまんでいうと、次のようであった。およそ四十年前にこの地上の連中何人かが、用事か観光かよく分からないがとにかく、上空のラピュータに昇ったことがあった。五ヶ月の滞在の後、数字こそ生半可な知識にとどまったがあの縹渺たる大空の一角でえたらしい、浮わついた気質だけは溢れるばかりに身につけて帰ってきた。帰るや否や、地上における今までの一切のやり方にけちをつけ始め、あらゆる技能、学問、言語、技術を根底からやり直し、新しい基盤に立って作り上げる計画を練りだした。そのために、ラガードに企画研究所(アカデミー・オブ・プロジェクターズ)を設立する勅許を国王からえた。こういった風潮は忽ち国民全体に浸透してゆき、この王国のちょっとしためぼしい都会でこのような研究所(アカデミー)のない所は一つもないという有様であった。これらの研究期間では、教授たちは農業や建築術の新しい法則と方法だとか、あらゆる商業や工業に必要な新しい機械や道具だとか、の開発に夢中になった。もしこれが開発されたら、一人で十人分の仕事ができる。宮殿だって一週間でできる、修理を加えなくても永久に保つ耐久力の強い材料を使えば、そんなことは朝飯前だ。地上のあらゆる果樹も、われわれが適当と思う季節に実をならせ、しかも現在の百倍も生産高を上げることができる。ざっとこういうのが彼らの言い分であった。彼らのこういった結構な計画は、この他無数といってよかった。ただ惜しむらくは、このような企画が何一つまだ完成されていなかった。したがって、それまでは国土は見渡す限り荒廃に委ねられ・・・・・・
(岩波文庫『ガリヴァー旅行記』ジョナサン・スウィフト著 平井正穂訳)
授業日: 2001年7月3日;